(一部抜粋)

何よこれ――――

セミナー会場からトラックの荷台に載せられて教団施設に運ばれ、搬入庫で下ろされてから、適性検査と称して変な小部屋に入れられた後。

あたしは自分の左手の甲に焼き付けられた番号を見て愕然とした。

C‐226

AとかBとかじゃない、C。成績とかだと、絶対にいい意味なんかじゃない。C評価。

服とかでも、A級品は普通の売り物、B級品はアウトレットショップか激安通販の叩き売り、でもC級品なんてお店に並んでいるのを見たことがない。つまり売り物にならない不良品なのだ。

C、C、C。どうしてあたしがCなのだ。

他の人達はどうなんだろう。

あたしは周りを見回した。すると、ほとんどの子がCだったので、あたしは少し安心した。よかった、これで普通なのだ。

だけど、一人の女の子の手にA‐12という番号が焼き付けられているのを見て、あたしは自分の顔が凍りつくのを感じた。

トラックで運ばれている最中、周りの空気も考えずに隣りの女の子と何やらひそひそ話をしていた子だった。トラックを下ろされた後は、ケータイで大声でしゃべっていたバカまで話に加わる始末だった。低レベルども、とそれを見てあたしは思った。不安で仕方ないのかもしれないが、それなら最初からこんなところに来なければいいのだ。

なのに、その子はAだった。その子だけAだった。

どうしてだ、とあたしは思った。あんなに脚が長くて、胸だって大きくて、スタイルがいいのに。長くてさらさらの髪で、顔だってアイドルみたいに美人なのに。なのにどうしてその上Aなのだ。あの子がAであたしがC。こんな不公平な話があっていいのか。

――いや、違う、とあたしは思い直した。

ここはFARGOの教団施設だ。学校でもなければ服屋でもない。単純に上からABCとかじゃなくて、何かもっと別の、特別な意味があるに違いない。

そうだ、きっとこれは、問題を起こしそうな人間を表す記号なのだ。だってあの子はトラックの荷台でもここでもずっとうるさく雑談していたではないか。他の人はみんな静かにしているのにだ。あの子は要注意度A。問題アリ。あたしはCで普通。そうに違いない。だってみんなCなんだから。

ケータイでしゃべっていたバカがBだったので、あたしはさらに確信を強めた。

やがて、FARGOの黒い制服を着た男が、あたし達を迎えにきた。

あの、Aの子一人だけが真っ先に、みんなとは別に連れて行かれた。学校で、なにかというと教師が付き添って別行動をさせられる「特別な子」みたいに。お気の毒様。あたしは胸の内でせせら笑った。

次に、Bの子が三、四人、そして、最後が、あたし達Cだった。

「こっちだ、ついて来い」

横柄な口調で言われて、あたしは少しむかついたが、黙って従った。どうってことない。あたしは別にお客さん扱いされたくてここに来たのではないのだから。あたしは表情一つ変えず、率先して男の後について歩きはじめた。

途中、男の腰に拳銃が吊るされているのに気づいて、あたしは思わず息を飲んだ。エアガン?まさか本物だろうか?

きっと本物だ、とあたしは思った。ここでは何もかもが、本気の本物なのた。ここは甘い所ではない。あたしのような、本当の覚悟を持った人間だけが来る場所なのだ。全身の体毛が冷たく逆立つような緊張感に、あたしはむしろ喜びを覚えながら足を進めていった。

長い、曲がりくねった通路を進み、カードと暗証番号で開くドアを通り抜けて、あたし達は居住区に着いた。搬入庫と同じコンクリートの壁に、鉄の扉が並んでいる。まるで刑務所か強制収容所。ますます本気っぽい。胸が高鳴る。

男が、ドアを開けた。

「ここが今日からお前達の寝床だ」

あたしの鼻先に、むっとするような異臭が漂ってきた。

「多分この先ずっと、な」

何、これ…

あたしは目の前の光景に唖然とした。

部屋は、教室二つ分くらいの広さで、壁も、床も、天井も、通路と同じに剥き出しのコンクリートだった。天井に、切れかかった蛍光灯がちかちかと瞬いている。

そこの床一面に、毛布を敷いて、たくさんの女の人達が、ほとんど満員状態でうずくまっていた。まるで、テレビで見た地震の緊急避難所みたいだった。違うのは、全員が、完全に無言だということだった。黙ったまま、ただ、腐った魚みたいにどんよりとした視線を床のあたりに注いでいる。これがCの人間――この死人のような連中と同じレベルだと、あたしは判断されたというのか。

それに、あれはなんだろう。部屋の隅にバケツが置いてあって、その周りの床になんだか茶色っぽい変なしみが広がっているように見える。そして、その側の壁には針金でトイレットペーパーが吊るされている。まさか――まさかそんな――

あたしの視線に気づいて男が言った。

「ああそうだ――便所はあそこでしろ」


(「地下室のメロディ」より抜粋)